京都在住おじさんのつれづれ雑記帳・・・グルメ・銭湯・アニメ・映画、etc・・・

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「日の名残り」(カズオイシグロ)の雑感、欺瞞的な「品格」の中身

かなり長めに体調を崩してしまっていました。ちょっと回復したかなと思って仕事にでたら、またすぐに悪くなって…原因は不明です(´;ω;`)。

そんな感じで、部屋で寝ながら、電子書籍で「日の名残り」(カズオイシグロ)を読んだので雑感。ノーベル文学賞を取っている、カズオイシグロは「わたしを離さないで」も読んでますので、2冊目ですね。あと数冊は読んでおきたい作家です。ちなみに寝転がりながら読み、疲れたら休み、また手に取って読書を再開するというスタイルに電子書籍はむいてはいます。

カズオイシグロの物語の特徴は「信頼できない語り手」が語るという点です。この物語は主人公のダーリントンホールの執事のスティーブンスによって語られる物語ですが、当然、自分による自分語りであるので、都合の悪い事実や、語りたくないことは語られないし。物語前半部分では、話の全体像もよく見えてきません。にもかかわわらず、読者をすっかり魅了するつくりこみはとてつもなくすごいです。一つの小説というのがこれだけ緻密に隙がなく作りこまれているのかとそれだけでも感嘆の気持ちを持ちますが、そこはぜひ読んで味わってほしいです。

さて物語は、1956年の数日の旅行という軸と、1930年代のダーリントンホールという二つの軸があります。ダーリントン卿とダーリントンホールは完全なフィクションですが、ダーリントン卿にはモデルがおり、当時のイギリスの状況を比較的適格に表しています。そして政治や経済を司る大英帝国の貴族たちの優雅で華やかな振る舞いの陰にみえる傲慢さと醜さ、それに一切の疑問をもたない執事の愚かさを浮き彫りにすることで現代に生きる私たちにも非常に鋭い警鐘を鳴らす文学作品に仕上がっています。物語のダーリントン卿はナチスに融和的な姿勢をとっており、なんとかイギリスとドイツが敵対しないために試行錯誤の外交で暗躍する姿が執事の目を通して描かれます。このあたりは史実に近い描写です。1930年当時、イギリスはナチスに対する態度を決めかねており、大陸でナチス政権の非道が次々と明らかになってもまだ「迷って」いたのです。そして、主人公の執事は、それこそが執事の品格であるといわんばかりに自らの頭で主体的に考えることを放棄していきます。僕は、その姿に怖さを感じます。

考えてみると、この小説の主人公が執事が重んじる「品格」なるもの。それは武士道精神や騎士道精神とも言えるし、あるいは明治政府がさかんに吹聴した各種の勅語(代表は教育勅語)などとも言えます。現実はそれらに宿される精神などすべて欺瞞的なものです。品格、名誉、そんな言葉の裏にあるのは隠しもせず「主君への忠誠」です。つまり「奴隷になれ」ということです。大事なのは自分で考えること、判断すること、論議すること、主体性を放棄しないこと。読後、そんなことを考えていますした。しばらくノーベル文学賞をとった本を手に取っていくのもいいかなと少し思っています。体調悪く珈琲ではなくオレンジジュースでした。